急激な減量のせいなのか、生理が1週間以上遅れてる。
食事制限だけでなく、脂肪を減らす運動もしているせいもあるだろう。

1週間も遅れるなんていままでなかったし、中田氏されてはいないけれども、危険なことは何度かあった。
しかも相手はぐわし2号。
あああああ怖い、怖いよー。

ということで、初めて妊娠検査薬なんてものを使ってみた。
こんなときに限って尿意がない。
水を1.5Lくらい飲んで、無理矢理出した。

待つこと1分。

キッチンタイマーがピピピと音を立てた。
1分以上待った気がした。

結果は、陰性。

ああああよかったーーーー!!

けど、まだチェックできる日じゃなかったかもだし、来週また調べてみよう……。

ついでにHIVとか怖いなーとか思いはじめたら怖いなー怖いなー。
こんな糞人生どうなってもいいやとか思って遊びすぎたなー。

これからはマトモな彼氏のためにマトモに生きようと思います。

って、彼氏とか呼んでいいのかな…。
まだかなり不安…。
脂肪吸引体験談[4]
 
 
 
 
 
 
 
 
■麻酔

黄色い(と感じただけで実際は見ていないし無色であると思うが)ガスがマスクから入ってきた。
思わず息を止める。

「今ガス流してますからね。ゆっくり鼻から吸ってください」

ナースのその声が無かったら私は息を止めたままだっただろう。
私はゆっくり鼻からそのガスを吸った。
痛い。
痺れるような感覚が全身を駆け抜けた。
それをさとられたかのように、ナースの声がした。

「痺れる感じがするかも知れないけれど大丈夫ですよ。麻酔の痛みをやわらげるためですからね」

わかってる。
麻酔は痛い。
それは、歯の治療のときに何度か体験した痛みだ。
口より広範囲の麻酔。
その広さの分だけ痛いだろうという予測はしていたので、私はもう一度ゆっくり、そしておおきく息を吸った。

うつ伏せになり、両手を広げ、右頬を枕につけて寝ている状態のはずだった。
しかし一瞬、おおきく羽を広げて飛ぶ鳥になった気がした。

あ、気持ちいい…。

一瞬、一切の感覚が快楽へと変わった。
もっとその感覚を味わいたくなって、もう一度、深く吸い込んだ。
今の私ならなんだってできる、そんな気さえした。

四度目に吸い込んだところで、私の意識は飛んだ。

■オペ開始

左腕の鈍い痛みに、私の意識は還った。
どうやらもう始まっているらしい。
腕の外側を、肩のあたりから肘にかけてものすごい力で指圧を受けているような感覚。
それが何度も続いた。
逆(つまり肘から肩)に進む感覚は無い。
常に肩から肘、だ。

そうだ、さっきのガス。
麻酔ってあんなふうなのかも知れない。
とても気持ちが良かった。
もう一度吸えるなら吸ってみたいような、甘く、危険な衝動。
しかし、薬に依存することの怖さを知っているから、その考えを頭からほうきで掃き出そうとした。
いけない。
危険だ。

それにしても、アイマスクをしたときにずれた口もとのマスクを直してもらってよかった、と思った。
あのとき声をかけていなかったらガスをちゃんと吸えなくて痛い思いをしたかも知れない。
今だってやっと呼吸をしている状態(と感じてはいたが実際は普通に呼吸できていたと思う)、きちんと酸素を吸えなかったら…。
事故を防ぐには、すべて人任せではだめなのだ、と思った。
青信号で横断歩道を歩いているときに車が突っ込んでこない保証が無いのと一緒だ。

普段から常に何らかの思考活動をしている私の脳は、こんな状態でも活発に動いていた。
出来る限り記憶をしておこう。
そしてどこかにまとめよう。
それはきっと、いつか、何かの役に立つはずだ。
自分のため、これから脂肪吸引をしてみようと考えている人のため、あるいは(考えたくは無いが)事故が発生した場合には知り合いのライターさんにネタとして提供しよう。
だから、だから私はきちんと記憶しておかなければならない。

その間もずっと指圧(というか親指で力強くグググとなぞっているような感覚)は続いていた。
いったい私の腕は今どうなっているのだろう。

耳の感覚がほとんどない。
ドクターやナースの声も、例えば小テストをしている教室の隣の調理室で調理実習がおこなわれているんだな、という程度にしか聞こえなかった。
器具のぶつかる音といい、適度な会話といい。
かかっていたはずの静か(しかし陽気な)音楽も聞こえなかった。
バイタルチェックの「ピ、ピ、ピ…」という一定のリズムを刻む電子音だけがはっきりと聞こえた。
あの音は、きっとどんな状態でもヒトの耳によく響く周波数なのだろう、と思った。
準備をしているときに、右足の指ではかっているそれが少しとれかかってしまい「ピーーー」と鳴り響いたときには死んだかと思った。

目は閉じていたか開いていたか覚えていない。
開いてもどうせ見えないし、と、閉じていたような気がする。
あるいは、開く力が無かったか。

思考だけがいつもより活発に動いているのはきっとこのせいだろう、と思う。
耳も、目も遮断された状態。
そういえば、においの記憶も無い。
使える機能が、よけい敏感に反応していた。

左足のふくらはぎに圧力を感じた。
これは、血圧。
下半身の感覚ははっきりしていたが、残念ながら私には下半身に耳や目や鼻はついていないので、遮断された情報を確認することは出来なかった。

途中、「大丈夫ですか」と声をかけられ、私は遠くに居ることに気付いた。
はっきりしているようで、実はトリップの最中だったのだ。
意識と体が近付くと、急に痛んだ。
ピ、ピ、ピというリズムは狂っていない。
生きているのわかっているのだから寝かせておいて欲しい、と思った。
寝かせて?
私は寝ているのだろうか?

右腕に電流が走った(ような気がした)。
どうやら右腕の番らしい。
左のときよりも痛みを感じる。
麻酔が足りないのだろうか。
あるいは、記憶が戻りつつあるため?

右腕もやはり肩から肘へ向かう何かを感じた。
逆は無い。
左腕にもその感覚がまだあった。
まだ続いているのか?
それとも幻覚?

突然、親指(のような感覚)だったはずの圧力が、ナイフに変わったような痛みを感じた。
私は思わず声をあげる。
しかしそれは声にならない。

「あ…あああ……」

だらしなく開いた口から唾液が漏れた。
呼吸が速くなる。
助けて…助けて!!
しかしやはり声にならない。

「ここいちばん痛いところだからね、うん、ごめんね、ちょっと我慢して」

ドクターの声がした。
なぜわかる?
なぜいちばん痛いと断言する?
左はこんなに痛くなかったわ!!

逃げ出したかった。
しかし私の体はまるで手かせ足かせがついたように動かない。
いや、足は動くはずだ。
思い切って左膝を曲げる。
動く。
私は何度かバタバタさせてアピールした。
痛い、と。

なぜ左足にしたかというと、左足の血圧計ならマジックテープなので暴れても取れてしまうことはないだろうと思ったからだ。
右足のクリップはきっと外れやすい。
外れて中断、なんてことは避けたかった。
ドクターの邪魔をしてはいけない。
それは、歯医者で痛いときには左手を上げるという法則に似ていると思った。

ナースやドクターがなだめる声がする。
次第に聞こえる音が増えてきた。
調理実習はこの部屋で行われていたようだ。

ズズ、ズズズ…
ピチャ、ピチャ…

なにかが流れるような音がする。
もしかして、これが吸い出している音?
さっきまでは聞こえなかった音が聞こえる。
痛みも激しい。
私は限界を感じたので、ここで思考を強制的にシャットダウンすることにした。
 
 
 
 
 
(続)
 
 
 
脂肪吸引体験談[3]
 
 
 
 
 
 
 
 
■ナース(あるいは単なる事務屋)とのやりとり

半個室状態の待ち合い室。
ナース(あるいはナースのコスプレをした事務スタッフ)は二十代が多いと思われた。
しかし、ここで現れたのは三十代半ばくらいの人。
きっとこのクリニックではベテランの粋だろう。

「二の腕と脇ですよね。脇は、前面ですか? 後面ですか?」
「え? 別なんですか?」
「ええ、どちらかになりますね」

診察室ではそんなことは聞いてない。
前+後ろをやるとなったら倍の額がかかると言う。
ちょっと不信感を持った。

「気になる方はどちらですか?」

私は、「気をつけをしたときに胸のあたりからはみ出る肉を取りたい」ということを伝えた。

「じゃあ前面ですね。あ、そのセーター、もしかしたら包帯を巻くから着て帰れないかも知れないけれど大丈夫かしら」
「そんなに包帯を巻くんですか?」
「うん、分厚いガーゼをあててきつく巻くのね。しっかり固定しないといけないのよ。苦しいけれど、二、三日そうやって固定しないとよけいに浮腫んじゃうの」

ロングのコートを着ていたので、セーターを着れなかった場合、最悪包帯の上に直接コートを着て帰ることになりそうだった。
今は真冬。
しかし、別の服を着て別の日に来ることは面倒だったので、承諾。
それに、このスタッフの対応も良かったので、まぁいいや、と思えた。
「前にあてて、袖を後ろでしばってコートを着る(石田純一がやってるような“プロデューサー巻き”の逆)、とかすれば少しは寒さをしのげるかも」とか、いろんな提案をしてくれたのだ。
その他も、手順などていねいに説明をしてくれた。
問診票を見ながら飲んでいる薬について聞かれたので、ついでに「アスピリンはダメです」と強く伝えた。
鎮痛剤は絶対使う、と思ったからだ。
問診にも書き、診察室でドクターに言い、ここでも言った。

「アスピリン飲んだら吐きます」

手術は別のフロアになる、とのことで、その案内をするからもう少し待ってくれ、と言われた。
お手洗いをすませておいてくださいね、とも。
私はお手洗いに行き、待ち合いに戻って壁に貼ってある美容整形の「前」「後」の写真を眺めて待った。
二重やしわ取り、豊胸など、どれもすごい変化だ。
仕事柄、写真に手を加えたもの(合成など)は見てわかる。
多少の加工はあるだろうが、ほとんどほんものだろうと思った。
全身の脂肪吸引をした女性の水着写真の二の腕の変化があまりなかったのもなんとなく信用できた。
劇的に細く加工した写真が載っていたら、それは嘘だろう、と思っていたと思う。

名前を呼ばれた。
あれ、さっきの番号札は?
応えると、何だかぶすったれたおねーちゃんが出てきた。
二十代半ばくらいで、きれいな人だが、しかし愛想が無い。

「お会計が先になりますので」

そう言うと、受付のカウンターに案内された。

「手術承諾書(同意書?)」を二枚渡され、サインと、印鑑がなければ拇印を、と言われ、朱肉を差し出された。
一通り目を通してからサインをした。
そして、人さし指を朱肉につける。

「ありがとうございまーす」

えーっと、拭くものくれないかしら。
そこにティッシュあるでしょう?
でもなんか言うのは悔しいのでバックからわざとらしくポケットティッシュを取り出し、目の前で拭いてやった。
ぶすったれは、気がきかないことを何も恥じていないようだった。

クレジットカードで支払った。
ひとまず一括で払い、あとから分割かリボに切り替えることにした。
そういう支払い方ができるカードでよかった、と思った。

「病院の方へ案内しまーす」

ぶすったれと一緒にエレベータに乗った。

■フロア移動

「こちらで靴を脱いでください」

そういうと、ぶすったれは白いビニール袋を差し出した。
ちょっと待ってくれ、こっちはブーツだ。
しかも、手にはバッグとコートを持っている。
椅子も無しに脱げ、ビニールに入れろだと?
さっきのベテランさんだったらきっと荷物を持ってくれるか何かしただろうな、と思った。
仕方が無いので、がんばってブーツを脱いで、ビニールに入れた。
それも、パンプスなら入るだろうが、ブーツなのでもうぎゅうぎゅうだ。

「お願いしまーす」

ぶすったれは語尾をのばしそう言い、フロアにいたナース(これはほんものだろう)にファイルを渡していた。
そして、さっさと帰っていった。
他の人の対応が良かっただけに、このぶすったれはほんとうに残念だった。
いくらきれいでも、心がきれいじゃないとまったく美しくない。

■オペ準備

オペ室に通された。
中央に手術台がある。
上には、歯医者のようにアームで角度や場所を調節できるライトがあった。
手術の経験は、三歳までさかのぼらないとないので、他と比べようがないが、イメージしていたよりも「普通の部屋」という感じだ。
厳重な扉があるわけでも、ひんやり暗いようなものでもない。
鍵も、つまみをひねって閉めるだけの簡単なものだった。
ショッピングセンターなんかでかかっているような、歌のない静かな音楽が小さい音で流れていた。
有線だろう。

「お荷物そこのカゴに置いて、上だけ脱いでこれに着替えてくださいね。下はそのままで結構ですよ。それから、このキャップをかぶってください」
「はい」
「あ、マニキュアしてますねぇ。じゃ、靴下も脱いでください。血圧測ったり、爪の色を見たりしたいんでね。足でも大丈夫ですからね。着替え終わったら台に座って待っててください」

カゴは、風呂場に置くような、キャスターつきの、二段になっている物だった。
上にバッグとコートと脱いだものを、下にブーツと靴下を置いた。
手術着は、前びらきのよくあるかたちのものだったが、違うのが、袖につけられたスナップ。
5、6個ついていて、手術のときはそれをひらくのだろう、と思った。
キャップは、食品工場やなんかで使うようなものだった。
どちらもブルー系統の色。

着替えが終わった頃、ナースがノックをしてから入ってきた。

よく見ていなかったが、計三人は出入りしていたと思う。
少なくとも二人はいた。
彼女らがサポートとして加わるのだろう。
機械やら生理食塩水のパックやらの準備をしている人と、私に色々聞いたり説明をする人がいた。
麻酔のパッチテストを、左腕の、やや手首よりのところに一カ所。

「ぷくっとなってるところ触らないでくださいね。麻酔のテストですから」
「はい」
「お薬のアレルギーは無いですか?」
「いや、アスピリンって伝えてあると思うんですが…」
「あ、はいはい。炎症をおさえるお薬と一緒に鎮痛剤も出しますからね。アスピリンじゃないのにしましょう」

いったい何度言えばよいのだろう…。
私は呆れた。
私の場合、「吐く」だけだからいいけれど、命に関わるような発作が出てしまう人だったらどうするんだろう。
思い切って、薬の指定をすることにした。

「ロキソニンはありますか?」
「えーとね、ロキソニンはないけどロブならあるわ。それにしましょうね」

よし、ロブはロキソニンと同じ成分だから大丈夫だ。
話が通じるナースで良かった。
さっきの質問は、きっと書いてあることの確認のためだったのだろう。
そう思い込むことにした。

なぜかデジカメが持ち込まれた。
コンパクトデジカメだが、かなり旧式(少なくとも五年以上前のモデル)だということが一見してわかった。

「お写真撮らせてくださいね」

え、何?
事態が飲み込めずぽかーんとしているところに、さっさと腕のスナップをはずしていくナース。
肩までたくしあげると、カメラを構えた。
右、左、正面、後ろの計四枚撮影。
何かの証拠写真だろうか。
しかし「写真撮影あります」なんて聞いていなかったからビビった。
嫌だとかそういうんじゃなくて、そのデータもらえないかな、とふと思った。
今までこの太い腕は何よりのコンプレックスだったのだ。
そんなものがむき出しになっている写真なんて、あるはずがない。
参考資料として、私も欲しい。

「じゃ、このあと先生にマーキングをしてもらいますからね」

ナースがスナップをつけ直した。
脂肪のつき具合や、どこを取るかを決めるのだろう。
やがて、先程のドクターが入ってきた。
ナースが腕のスナップをはずしていく。
さっき止めなくてもよかったのに。

「こうやってつまめるところが脂肪ね。これがだいたい半分くらいになります」

半分か。もうちょっと取れないもんかね。

「肘のしわの部分からと、脇の、背中側の付け根あたりから入れて取ります。肘の方は目立たないと思うよ」

肘は、ね。
まぁいいや。

ドクターは、紫色のサインペンで腕に何本も筋を書いていった。
くすぐったいという感覚が少しだけあったが、緊張のため、それはすぐに曖昧なものになった。
「脇もだよね」といいながら脇のうしろの肉をつまむドクター。

「さっき前って言ったんですけど…」
「え? 前? 前はそんなに取るところないよ?」
「そうですか?」
「うん、だって、つまんでごらん? これしかないでしょう? よっぽど太ってる人なら前も取ることあるけど、普通は後ろだよ。後ろのたるんでくるところ」

そういえばさっき診察室でこのドクターが言っていたな。
「三十代になるとだんだん脂肪が下垂してきて、そうなったらもう吸引しても遅いんだ」と。
なるほど、前より後ろの方が下垂しやすいし、後ろの方が取るところはたくさんある。

「どうしても、って言うなら取れなくもないけど…」
「別料金で?」
「いや、一緒にできるけど、あまり意味ないと思うなぁ。傷増やすだけになっちゃうよ。それにここ乳腺あるでしょ。あなたおっぱい大きいから、それもあると思うね、ここは」

仕事増やしたくないのかほんとうに取る肉がないのかわからなかったけれど、ここは従うことにした。
料金の話を出したのはちょっとマズかったかな、と思いつつ。
なによりドクターの機嫌をそこねてはならない。
それに、万が一乳腺に傷が付いたら、と思うと怖かったからだ。
ここの肉はブラジャーのサイズをあげてしまいこんで胸肉にしてしまおう。
きちんと補正できる下着を買って。
それにしても「おっぱい大きい」って、気にしてることを…。
まぁ、豊胸手術もたくさんやったことあるだろうし、体型の判断は優れた人なんだろうなぁ。

「今日、時間あるんだったよね? 少し休んでいける?」
「はい、終わったら帰るだけなので」
「麻酔の前に、ちょっと鈍くさせる薬使うね。ふらふらするようなら休んでっていいから。それ使った方が麻酔の痛みちょっと減るから」

ドクターはそう言うと、ナースに何かを用意させた。

マーキングが終わるとドクターは出ていき、ナースたちは準備を再開した。
それから、左腕の手首の体より(親指沿い)に点滴を刺した。
止血剤だろうか。
私は注射などの痛みについてはとくに嫌ではないので、さっきの麻酔のパッチといい、大丈夫だ。

「じゃあうつ伏せになってくださいね。顔をどちらか楽な方に向けてください」

私は右側が下になるように寝た。
左手に点滴をしているから寝にくかった。
枕の位置を調節してくれ、心電図の吸盤を胸にぺたぺたと取り付けられ、右足の指に心電図のクリップを、左足に血圧の、よくある太いマジックテープのやつが巻かれた。
(見えないので「だいたいこんなことをされてただろう」という想像だが)

「酸素のマスクしますね」

半透明の緑色したマスクをあてられる。
ああ、テレビでみるやつだ、と思った。
まさか自分がすることになるとは。
酸素が流れてくると、とても心地良かった。
「酸素バー」なんてのが流行る理由が少しわかった。

「ライトまぶしいですからね。眠くなったら寝ちゃって大丈夫ですよ。ちゃんと心電図とってますから」

目もとにアイマスクをあてられ、タオルがかぶせられた。
その勢いで、マスクが少しずれた。
どうしようか、と思ったけど、思い切って声をかけた。

「すいません、マスクずれちゃったみたいです…」
「あら、ごめんなさいね。直しますね」

左側面、足元の方にあるドアからドクターが入ってきたのがわかった。

「麻酔の前にガス流します。ちょっと痺れるような感じがするかも知れないけれど、大丈夫ですよ」

その瞬間、色に例えるなら黄色い空気が鼻から入り込んできた。
 
 
 
 
 
(続)
 
 
 
脂肪吸引体験談[2]
 
 
 
 
 
 
 
 
■予約の電話

電話番号を書いたメモをテーブルの上に置きっぱなしにして数日がたった。
怖じ気付いたわけではない。
ただ、面倒だったのだ。
面倒なことが次々と降り掛かってきてしんどい日々が続いていたから、必要以上に誰とも接触したくなかった。
そんな鬱々とした日を数日過ごしていた、とある土曜日。
急に思い立って、メモを手に電話をかけた。

「はい、○○(クリニック名)です」
「あの、ホームページを見てお電話しているんですけれども、脂肪吸引をしたいのでカウンセリングを受けたいのですが、この電話で予約できますか?」
「はい、できますよ」

普段なら日曜に用事を入れたくはないのだけど、この日は自分のなかで何かが違った。
早くしなきゃ。

「明日でも大丈夫ですか?」
「ええと、はい、大丈夫です。何時がよいですか?」
「15時くらいで…」
「はい、承りました」

予約はあっさり取れた。
せっかくなので、色々聞いてみることにした。

「脂肪吸引の箇所はどこですか?」
「二の腕です」
「二の腕ですと、9万9000円ですね」
「ホームページにはそれ以上の金額はかからないと書いてあったんですけど、ほんとうですか?」
「はい、カウンセリング、手術、麻酔、アフターケアすべて込みですのでこれ以上いただくことぐぁありません」
「カウンセリングを受けて、やっぱりやめにしよう、とかもできますか?」
「はい、大丈夫ですよ。心配なことなどありましたら、明日ドクターに直接聞いてみてください。そこできちんと説明させていただきます」

・はっきりとした金額提示
・カウンセリングのみでも可

というところが気に入った。
次々おしつけられたり、即手術をせまることもなさそうだ。
電話対応をしてくれた女性はとてもていねいで、駅からの道順もわかりやすく教えてくれた。
明日15時、行ってみよう。

■いざクリニックへ

そこは、ビルまるごとがクリニックだった。
大手の本院だから当然だろう。

受付で名前を告げる。
郵便局や銀行のような、番号の書いた紙を渡された。

「本日はこちらの番号でお呼び致しますので、なくさないようお持ちください」

個人情報の保護も行き届いているようだ。
しかし受付に人が多い。
見えるところに三人。
奥にも数人居るようだ。
皆きれいな人ばかり。
やはり整形している人もいるのだろうか、と思った。

待ち合いも、半個室のようになっていて、隣がどんなひとかわからないようになっている。
こういった気遣いは当たり前なのかも知れないけれど、その当たり前がきちんとしているところが良い。

問診票と、簡単なアンケートを記入。
飲んでいる薬や過去の病歴、アレルギー等、他のクリニックとたいして変わらない内容。
私はうつや不眠、皮膚科で等飲んでいる薬を書き、アレルギーのところに「アスピリン」と書いた。

■そして、診察室へ

番号を呼ばれて診察室に案内された。
中にいたのは、三十代半ばと思われる、さわやかな雰囲気の男性医師。
二の腕の脂肪吸引の場合、肘のしわの部分からカニューレを挿入するのであまり傷痕は目立たない、というような説明を受けた。
その他、痛みは二〜四週間、腫れは一〜二カ月続くということ、効果が出てくるのは落ち着いてくる三カ月後くらいだということも聞いた。
ほとんどがホームページに書いてあった通りで、それは、たいていのクリニックがホームページに書いていることだったので、とくに質問することはなかった。
しかしその後、驚きの発言が。

「二の腕をやるんだったら、脇もやった方がいいよ」
「え? 脇は別なんですか?」
「うん、別。太ももとお尻、っていうのもセットでやった方がいい箇所なんだけど、二の腕と脇も一緒にやらないときれいに見えないんだよ」
「そうですか…。どのくらいの人が一緒にやります?」
「七割くらいの人はセットでやるかな。脇は10万5000円」

何故?
何故吸引部位が少ない脇の方が高いのだ?
難しいのか?
それに、セットでやった方がいいなんて書いてなかったはずだ。
しかし、合計で20万4000円。
これは、ほかの美容整形外科での二の腕の脂肪吸引の額とさほど変わらない気がする。
そもそも9万9000円が安いのだ。
安いからここを選んだんだもの。
今ケチって二の腕だけやって、失敗してもう一度やらなければならなないという二度手間は避けたい。
それに、「カネの取れない客だ」という印象をつけて適当にやられるのも嫌だ。
値段がさほど変わらないのなら、これまでの対応が良かったこのクリニックで受けて間違いはないだろう。
…というようなことを一瞬で考えた。
カウンセリングまで来た以上、私は手術する気満々だった。

「今日時間ある?」
「ええ、ありますけど…」
「あるなら今日でもできるよ。オペ室あいてるから」

それは、とても魅力的な言葉だった。
今日できるなら今日やってしまおうか。
何度も来るのは面倒だ。

「じゃあ、お願いしようかな…」
「時間あるならそうしましょう」

そう言うとドクターは立ち上がり、腕を触り、このあたりを取ります、というような説明をはじめた。

「脇はどうする?」

商魂たくましいな、と思いつつも、返事をする。

「お願いしようかと思ってます。一気にやってしまう方がいいかな、と思って。できるだけ細くしたいから」
「そうだね、その方が体への負担も少なくすむよ」
「どのくらい取れるんですか?」
「取ろうと思えばいくらでも取れるんだけど、全部は取りません。少しは残しておかないといけないから、そうだね、五〜七割くらいを取ることになるのかな。(二の腕の肉をつまみながら)こうやってつまめる部分が脂肪。このつまめるのが半分くらいになると思って」

なるほど。
確かに、脂肪がゼロに近くなるのは危険ではある。
それに、それではきれいなかたちにすることはできないだろう。
細くするのは大前提だが、私はきれいなかたちの二の腕が欲しい。

脇からも吸引することになったので、計四カ所傷ができる、とのこと。
傷痕についての心配はあまりなかった。
それより、細い腕が欲しい。
細くなればいい。
たとえノースリーブで街に出たとして、その痕が脂肪吸引だとわかる人はそういないだろう。

そう思うには、理由があった。
私の両肩には、いつできたかわからないケロイドがあるのだ。
たぶん、中学生、第二時成長期あたりにできたんだと思う。
それより大きな痕が残るとは思えなかった。
私はそのケロイドをドクターに見せた。

「これより大きい傷が残りますか?」
「ああ、ケロイドだね。ケロイド体質?」
「よくわからないんですけど、中学生くらいのときに急にできたんです…」
「うーん、体質だったらもしかして残っちゃうかも知れないけど、そんなに大きくはならないと思うよ」

もしかして残るかも、という曖昧な表現は、「残りません」という断定や「残ります」という脅しよりいくらか安心できた。
そんなもの、ドクターにだってわからないということくらい理解している。

「傷痕残っても仕方ないって思ってるので大丈夫です」

こちらが客ではあるが、私はこれからこのドクターに私の二の腕を任せることになるのだ。
ドクターに不快な思いや面倒なプレッシャーをかけるのは損だと思った。
気持ちよくオペに望んでもらえれば、きっと良い結果が出る。
一度しかしない(大金故、金銭上できない)ことだ。
絶対成功させなくてはならない。
そんなことを強く思いながら、診察室を出て、さきほどの、半個室の待ち合いに向かった。
 
 
 
 
 
(続)
 
 
 
脂肪吸引体験談[1]
 
 
 
 
 
 
 
 
■はじめに

このブログもあまり書くことなくなってきてしまったし、かと言って消すのも勿体無いし、ということで、この場をうまく利用して、せっかくなので先日受けてきた脂肪吸引の体験談を書こうと思う。
知り合いに公表しているブログではないからこそ書けることがきっとあるはず。
「脂肪吸引体験談」というキーワードで検索しここにたどり着いた人に、なるべくわかりやすく私が感じたままのその実態をお伝えできたら、と思う。
これを読む方への注意事項として、私はクリニック関係者や、そのライバル医院の関係者でも、知り合いがいるわけでもないことを理解いただきたい。
誰かをおとしいれるつもりも、広告記事にするつもりもない。
私はただ、私が体験したことを、これから脂肪吸引をしたい人や、美容整形とはどんなものか気になっている人に知って欲しいだけだ。

■コンプレックス

二十代後半にして初めて叩く、整形外科の扉。
突然思い立ったから、というわけではもちろんない。
何度も何度も「行きたい」と思っていた。
そう、コンプレックスを解消するために。

私には、どうしても二の腕を細くする必要があった。
高い身長と、水泳のせいで広がった肩幅という“骨格”のせいで、過食症で最高に太っていたときから25キロ痩せても「華奢」という言葉とは程遠い体型。
膝下がきれいに痩せたおかげで「脚のかたちはきれい」と言われることはあるが、太い二の腕はいつまでたっても太いまま。
Fカップのバストも、よけいに上半身の体格を大きく見せている。

胸痩せダイエットの方法なんて、どこにもない。
それどころか、友人にはなかなか相談できない。
たいていはうらやましがられるからだ。
「ダイエットすると胸から痩せる」という話をよく聞くが、私にはまったく変化があらわれなかった。

■どれにする?

細くなる気配のない、胸と二の腕。
巷にあふれるサプリメントやジェルなんかは信じられない。
「これはもう、脂肪を吸い出してしまうしかない」と思った。
エステ、脂肪融解注射、脂肪吸引……。
どれも高額だ。
試すなら、どれかひとつしかない、と思った。

エステが一番気持ちよさそうだ。
けれども、次から次へとコースをすすめられたり、高額な化粧品なんかを買わされたらどうしよう。
心が休まらないのもは、体にも悪影響に違いない。

注射はどうだろう。
注射なら好きだ、と思って調べたところ、最低五回は通わなければならないということがわかった。
しかも、「二の腕」というのは「腕二カ所」、つまり、倍の額がかかるのだ。
「おなか」なら一カ所のところを。
この額なら、吸引できるのでは?

「脂肪吸引」という名前の通り、これならダイレクトに脂肪を取りだせるに違いない。
テレビで手術の場面をみたことがある。
アメリカの番組で、超肥満の人の体に金属の管を突き刺して、まるで掃除機をかけているように脂肪を吸い出していた。
そうだ、これだ。
これなら脂肪が消える。
「細くなる」ということより、「体から脂肪細胞が減る」ということがなにより魅力だった。

■不安なこと

不思議なことに、痛みや傷痕に対する不安は皆無だった。
それよりも、金額と効果。
かなりの高額だ。
これだけ積むのだ。
もし効果がなかったらどうしよう。
しかし、この額をエステに使うよりはいくらかいいだろう。
私の頭は、二の腕の脂肪を確実に除去することでいっぱいだった。

■病院探し

わずかなボーナスと、あと残りは一年で払いきるくらいのローンで手術をしよう、と決めた。
インターネットで脂肪吸引をやっている整形外科を調べた。
たくさん見て、比べた。
どこも使っている機械や方法なんかは一緒だ、ということがわかった。
それならなるべく年間の手術例が多いところがいい、と思った。
そして、「麻酔や薬代、アフターケア料込み。この額以上はいただきません」というところを見つけた。
もちろん電話はフリーダイヤルで、相談無料。
全国展開しているクリニックで、症例数も多い。
何より、本院が家から近いことも気に入った。
私はその電話番号を手帳にメモした。
 
 
 
 
 
(続)
 
 
 

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