脂肪吸引体験談[2]
2008年1月28日 美容・ダイエット・薬■予約の電話
電話番号を書いたメモをテーブルの上に置きっぱなしにして数日がたった。
怖じ気付いたわけではない。
ただ、面倒だったのだ。
面倒なことが次々と降り掛かってきてしんどい日々が続いていたから、必要以上に誰とも接触したくなかった。
そんな鬱々とした日を数日過ごしていた、とある土曜日。
急に思い立って、メモを手に電話をかけた。
「はい、○○(クリニック名)です」
「あの、ホームページを見てお電話しているんですけれども、脂肪吸引をしたいのでカウンセリングを受けたいのですが、この電話で予約できますか?」
「はい、できますよ」
普段なら日曜に用事を入れたくはないのだけど、この日は自分のなかで何かが違った。
早くしなきゃ。
「明日でも大丈夫ですか?」
「ええと、はい、大丈夫です。何時がよいですか?」
「15時くらいで…」
「はい、承りました」
予約はあっさり取れた。
せっかくなので、色々聞いてみることにした。
「脂肪吸引の箇所はどこですか?」
「二の腕です」
「二の腕ですと、9万9000円ですね」
「ホームページにはそれ以上の金額はかからないと書いてあったんですけど、ほんとうですか?」
「はい、カウンセリング、手術、麻酔、アフターケアすべて込みですのでこれ以上いただくことぐぁありません」
「カウンセリングを受けて、やっぱりやめにしよう、とかもできますか?」
「はい、大丈夫ですよ。心配なことなどありましたら、明日ドクターに直接聞いてみてください。そこできちんと説明させていただきます」
・はっきりとした金額提示
・カウンセリングのみでも可
というところが気に入った。
次々おしつけられたり、即手術をせまることもなさそうだ。
電話対応をしてくれた女性はとてもていねいで、駅からの道順もわかりやすく教えてくれた。
明日15時、行ってみよう。
■いざクリニックへ
そこは、ビルまるごとがクリニックだった。
大手の本院だから当然だろう。
受付で名前を告げる。
郵便局や銀行のような、番号の書いた紙を渡された。
「本日はこちらの番号でお呼び致しますので、なくさないようお持ちください」
個人情報の保護も行き届いているようだ。
しかし受付に人が多い。
見えるところに三人。
奥にも数人居るようだ。
皆きれいな人ばかり。
やはり整形している人もいるのだろうか、と思った。
待ち合いも、半個室のようになっていて、隣がどんなひとかわからないようになっている。
こういった気遣いは当たり前なのかも知れないけれど、その当たり前がきちんとしているところが良い。
問診票と、簡単なアンケートを記入。
飲んでいる薬や過去の病歴、アレルギー等、他のクリニックとたいして変わらない内容。
私はうつや不眠、皮膚科で等飲んでいる薬を書き、アレルギーのところに「アスピリン」と書いた。
■そして、診察室へ
番号を呼ばれて診察室に案内された。
中にいたのは、三十代半ばと思われる、さわやかな雰囲気の男性医師。
二の腕の脂肪吸引の場合、肘のしわの部分からカニューレを挿入するのであまり傷痕は目立たない、というような説明を受けた。
その他、痛みは二〜四週間、腫れは一〜二カ月続くということ、効果が出てくるのは落ち着いてくる三カ月後くらいだということも聞いた。
ほとんどがホームページに書いてあった通りで、それは、たいていのクリニックがホームページに書いていることだったので、とくに質問することはなかった。
しかしその後、驚きの発言が。
「二の腕をやるんだったら、脇もやった方がいいよ」
「え? 脇は別なんですか?」
「うん、別。太ももとお尻、っていうのもセットでやった方がいい箇所なんだけど、二の腕と脇も一緒にやらないときれいに見えないんだよ」
「そうですか…。どのくらいの人が一緒にやります?」
「七割くらいの人はセットでやるかな。脇は10万5000円」
何故?
何故吸引部位が少ない脇の方が高いのだ?
難しいのか?
それに、セットでやった方がいいなんて書いてなかったはずだ。
しかし、合計で20万4000円。
これは、ほかの美容整形外科での二の腕の脂肪吸引の額とさほど変わらない気がする。
そもそも9万9000円が安いのだ。
安いからここを選んだんだもの。
今ケチって二の腕だけやって、失敗してもう一度やらなければならなないという二度手間は避けたい。
それに、「カネの取れない客だ」という印象をつけて適当にやられるのも嫌だ。
値段がさほど変わらないのなら、これまでの対応が良かったこのクリニックで受けて間違いはないだろう。
…というようなことを一瞬で考えた。
カウンセリングまで来た以上、私は手術する気満々だった。
「今日時間ある?」
「ええ、ありますけど…」
「あるなら今日でもできるよ。オペ室あいてるから」
それは、とても魅力的な言葉だった。
今日できるなら今日やってしまおうか。
何度も来るのは面倒だ。
「じゃあ、お願いしようかな…」
「時間あるならそうしましょう」
そう言うとドクターは立ち上がり、腕を触り、このあたりを取ります、というような説明をはじめた。
「脇はどうする?」
商魂たくましいな、と思いつつも、返事をする。
「お願いしようかと思ってます。一気にやってしまう方がいいかな、と思って。できるだけ細くしたいから」
「そうだね、その方が体への負担も少なくすむよ」
「どのくらい取れるんですか?」
「取ろうと思えばいくらでも取れるんだけど、全部は取りません。少しは残しておかないといけないから、そうだね、五〜七割くらいを取ることになるのかな。(二の腕の肉をつまみながら)こうやってつまめる部分が脂肪。このつまめるのが半分くらいになると思って」
なるほど。
確かに、脂肪がゼロに近くなるのは危険ではある。
それに、それではきれいなかたちにすることはできないだろう。
細くするのは大前提だが、私はきれいなかたちの二の腕が欲しい。
脇からも吸引することになったので、計四カ所傷ができる、とのこと。
傷痕についての心配はあまりなかった。
それより、細い腕が欲しい。
細くなればいい。
たとえノースリーブで街に出たとして、その痕が脂肪吸引だとわかる人はそういないだろう。
そう思うには、理由があった。
私の両肩には、いつできたかわからないケロイドがあるのだ。
たぶん、中学生、第二時成長期あたりにできたんだと思う。
それより大きな痕が残るとは思えなかった。
私はそのケロイドをドクターに見せた。
「これより大きい傷が残りますか?」
「ああ、ケロイドだね。ケロイド体質?」
「よくわからないんですけど、中学生くらいのときに急にできたんです…」
「うーん、体質だったらもしかして残っちゃうかも知れないけど、そんなに大きくはならないと思うよ」
もしかして残るかも、という曖昧な表現は、「残りません」という断定や「残ります」という脅しよりいくらか安心できた。
そんなもの、ドクターにだってわからないということくらい理解している。
「傷痕残っても仕方ないって思ってるので大丈夫です」
こちらが客ではあるが、私はこれからこのドクターに私の二の腕を任せることになるのだ。
ドクターに不快な思いや面倒なプレッシャーをかけるのは損だと思った。
気持ちよくオペに望んでもらえれば、きっと良い結果が出る。
一度しかしない(大金故、金銭上できない)ことだ。
絶対成功させなくてはならない。
そんなことを強く思いながら、診察室を出て、さきほどの、半個室の待ち合いに向かった。
(続)
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